記者資料提供(2022年5月13日)
神戸医療産業都市推進機構(理事長:本庶佑、以下「当機構」)は、林康貴特任研究員(当機構先端医療研究センター血液・腫瘍研究部、日本学術振興会特別研究員SPD)、井上大地血液・腫瘍研究部長、北村俊雄センター長(研究当時:東京大学医科学研究所(細胞療法分野)教授、現:当機構先端医療研究センター長)らの研究チームが、骨髄異形成症候群(MDS)由来エクソソームによる骨髄微小環境を介した造血不全の新規メカニズムを解明し、その研究成果が5月10日(火曜日)(米国東部時間午前11時)、国際科学誌『Cell Reports』にオンライン掲載されましたので、お知らせします。
正常造血細胞は骨芽細胞系列にコミットした間葉系幹細胞によるサポートを受けています(図上)。しかし、MDS細胞は細胞外小胞(エクソソーム)を介して、間葉系幹細胞の骨芽細胞系列への分化を抑制し、正常造血への支持力が低下します(図下)。それにより本来は弱々しいはずのMDS細胞が骨髄内でドミナントになり、病期が進展していきます。その副産物として、MDSでは造骨が低下し、骨粗しょう症のリスクが高まります。
【本研究のポイント】
MDSは造血幹細胞レベルでの遺伝子変異を伴う予後不良な悪性腫瘍です。
高齢者に多いMDS細胞は、それ自身では弱々しいクローンであり、細胞自律的には増殖することが難しい細胞です。また、MDS患者では骨粗しょう症が多いことが知られています。
MDS患者の骨髄では残存している遺伝子変異をもたない「正常」なはずの造血幹細胞も強く障害を受けていることがわかりました。
しかし、その抑制作用は、血球細胞間での直接的な作用ではなく、周囲の支持的ニッチとして重要な間葉系幹細胞を介していました。
MDS細胞はエクソソームを介して間葉系幹細胞の骨へのコミットメントを阻害し、ヒトでも認められるように骨形成を障害させます。この骨への正常なコミットメントが正常造血に必須であるために、MDS細胞が相対的に優位となり病期が進展していくと考えられます。
さらにMDS細胞が分泌するエクソソーム内のmiRNAが間葉系幹細胞の分化を抑制していることもヒト・マウスの広範な探索から明らかとしました。
MDSは造血幹細胞移植の適応外となる高齢者が圧倒的多数を占めることから、造血不全に至る原因となるMDS由来エクソソームを制御することで、輸血依存から回避できるなど、今後の新たな治療戦略につながることが期待されます。
※研究成果等の具体的な内容につきましては、添付資料(PDF:9,508KB)をご参照ください。
発表者
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
先端医療研究センター 血液・腫瘍研究部
特任研究員 林 康貴

東京大学医科学研究所細胞療法分野での学位取得を経て、2019年より血液・腫瘍研究部研究員。2020年より日本学術振興会特別研究員(SPD)。理化学研究所客員研究員。骨髄微小環境の研究に従事。
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
先端医療研究センター 血液・腫瘍研究部
研究部長 井上 大地
神戸市立医療センター中央市民病院に5年間勤務後、東京大学医科学研究所、 米国メモリアルスロンケタリングがんセンターで計9年間白血病研究に従事し、 2019 年より血液・腫瘍研究部上席研究員(グループリーダー)。2021年より同部長。京都大学・神戸大学客員准教授兼任。
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
先端医療研究センター長 北村 俊雄
東京大学医学部附属病院で2年間の内科研修後、東京大学第三内科で血液内科の臨床と研究を6年間行った。その間、国立がんセンター研究所ウイルス部で2年間リサーチレジデントとして研究。その後、米国DNAX研究所に留学、8年間サイトカインシグナル伝達の研究を行った。1996年から東京大学医科学研究所で25年間研究室を主宰。2022年4月から現職。
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