最終更新日:2020年10月9日
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東神戸の海辺の里は、海原という言葉からウハラの里ともウナイの里ともいいました。
千五百年も昔、このウナイの里に美しく愛らしい一人のおとめがおりました。成長するにつれ、多くの若者が思いをよせるようになりおよめにほしいと求められるようになりました。そんな若者たちの中に、一人の立派なますらおがありました。やがて二人は愛し合うようになり、もう少しで結こんしようとした時です。海の向こうのチヌの里(大阪府の西南部)から、これもすばらしい若者がウナイの里に移り住んできました。
この若者もウナイの里のおとめに恋をし、熱心におよめにほしいとたのみました。おとめは困りました。「お母さま。二人のりっぱな若者から思われるのはうれしいけれど、どちらもおとらずすばらしい方たち。どうすればよいのでしょう」
「心配しないで。神さまに選んでいただきましょう。毎年冬に生田川には、多くの水鳥がわたってきます。その中の一番みごとな水鳥を、弓矢でしとめてきた方に、お前をおよめにやることにしましょう」
このことを聞いた若者は、こっそり生田川に向かいました。別々に最も大きな水鳥を見つけそれぞれ矢を放ちました。が、二人の放った矢が当たったのは、同じ一羽の鳥でした。
「お母さま、聞きましたか。神さまでも二人のうちの一人を選べなかったんですわ・・・・・・」
思いなやんでおとめは生田川に身を投げて、死んでしまいました。おとめの死を知った二人の若者も、後を追って生田川で自殺してしまいました。
「水鳥も三人の男女も死んでしまったのに、この川の名前だけは生田川とは・・・・・・。せめて若者たちの思いを後の世に伝えてやろう」
人々はこうして、おとめの墓を中央にそこから東西に等しいきょりの所に、二人の男の墓をおとめの墓の方に向けて、築いてやりました。