最終更新日:2020年10月9日
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布引のたきの東の山をこえた谷間に、徳光院という静かなお寺があり、その寺の境内に水の弁天さまをまつる社があります。
もうずいぶん昔、まだ東神戸の海辺にも、あしの葉で屋根をふいた家がポツリポツリと見られたころ、布引のたきのそばに、かわいいむすめとおじいさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは、おさないむすめに言いました。「この布引のたきの水に打たれて、毎日毎日修行すれば、ふしぎな力が身について、何ごとも思いのままになるのじゃ。どうじゃ、修行はつらいが、お前もそうして修行して、ふしぎな力を手に入れて、世の中の人々を助けてあげては」
その日から、むすめは決心し、冷たいたきつぼに入って、高い岩から落ちてくるたきの水に打たれて、修行を続けました。大きなたきの水の柱は、小さなむすめの肩や背をはげしく打ちました。
やがてある日、むすめはもう、肩を打つ水の痛さも背を打つ水の痛さも、感じなくなりました。水中でも少しも息も苦しくなく、思いどおりに泳げました。遠くにこまっている人がいると聞くと、自由に空を飛んで行き、人々を苦しめる悪者がいる時は、おそろしいりゅうの姿に変身して、悪者と戦えるようになりました。
むすめは田畑の水や安全な航海や商売のなりゆきを見まもって、人々を助けました。やがて人々は、むすめを弁天さまとよんで信こうするようになりました。今でも時々弁天さまはこのふる里のたきのそばに来て、むすめの姿にもどって、たきをながめているそうです。