KOBEの本棚 第19号

最終更新日:2021年4月9日

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-神戸ふるさと文庫だより-
第19号 1996年6月20日
編集・発行 神戸市立中央図書館

久坂葉子

昭和27年12月31日、久坂葉子は京阪神急行六甲駅(現阪急六甲駅)で梅田行特急電車に身を躍らせ、わずか3年余りの作家活動に、自ら終止符をうちました。二十一歳でした。
久坂葉子(本名川崎澄子)は、昭和6年、川崎造船創立者の川崎正蔵の曾孫として神戸に生まれました。早くから創作を始め、昭和24年、島尾敏雄の紹介で同人誌「VIKING」に参加。1年後、小説「ドミノのお告げ」が芥川賞候補となります。
19歳という若さとその美貌によって一躍脚光を浴びた彼女でしたが、翌年の自伝的小説「灰色の記憶」の不評が原因で同人誌を脱退。翌27年の大晦日に書き上げた「幾度目かの最期」が遺作となりました。
華やかな生と凄絶な死ゆえに、なかば伝説化して語られがちな久坂葉子。ひたむきに「自分」を見つめ続けた彼女の真摯な生のスタイルは、現代の私たちに、「生きることの意味」という永遠の課題を問いかけています。

新しく入った本

  • 近代名建築コースガイド[神戸・兵庫版]
    機関紙出版編集室編著(日本機関紙出版センター)
    兵庫県内に残る明治時代以降の歴史的建築物を紹介した探訪ガイドブック。104ヶ所の建築物を北野町・山手周辺、旧居留地・税関、須磨・垂水、尼崎・西宮、加古川・姫路など、11コースにわけて案内する。わかりやすい地図や、周辺の美術館など散策スポットもあわせて紹介してあり、建築ファンならずとも、足をむけたくなるような仕上がりである。
    本書は、被災地に復興の応援歌を送ろうという思いを込めて編集されたという。読んでいくにつれ、「建物」という我々の財産が、こうやって震災を乗り越えてくれたということに対して、感動がわきおこる。
  • 1958-1970神戸異人館
    徳永卓磨
    本書は、神戸出身の画家、徳永卓磨の学生時代の作品、油彩画11点とデッサン19点を収めた画集である。
    作品は、いずれも神戸の異人館をモチーフにしたもので、若々しく力強い筆致により、建物の存在感が前面に押し出されている。中でも北野町の異人館を題材にとった「黄色い家」や、取り壊し寸前の姿を画布にとどめた「ヘルマン邸」などには、観る者を圧倒する力がある。
    また、描かれた異人館の中には、現存していないものも多く、記録という観点からも価値のある画業といえよう。
  • 歴史海道のターミナル-兵庫の津の物語
    神木哲夫・崎山昌廣編著(神戸新聞総合出版センター)
    古くは大輪田の泊、中世以後は兵庫の津として、全国各地の港はもとよりアジアと世界への門戸であった神戸。平清盛の港湾整備、うち続く戦乱の無常、兵庫の津の盛んな物流、そして開港。本書は、この稀有な都市の歴史と伝統の全容を、歴史や文学、経済史や文化史など、多角的な視点で捉えている。
    『神戸居留地の3/4世紀』に続く「神戸学」の本第2弾。
  • 暮らしをたがやす
    浅野晶子(田中印刷出版)
    著者は、家政学の教員として40年余りを歩むかたわら、神戸市や兵庫県の各種審議会の委員や神戸市の教育委員も勤めた人。本書は、その著者が、今まで折々に書いてきたものを一つにまとめたもの。
    日々の暮らしの中で感じたこと、家政学のこと、著者が関わった社会活動、父母のこと、人との出会いなど、8章に分けて綴る。
  • 新中央区歴史物語
    道谷卓(中央区役所)
    旧葺合区と旧生田区が合併して誕生した神戸市中央区は、昨年12月に誕生15周年を迎えた。
    本書は、1990年に中央区10周年記念として発行された『中央区歴史物語』を改訂したもので、前著で触れることができなかった史跡の紹介や町名の由来に加え、阪神・淡路大震災により史跡等がどのような影響を受けたのかを写真とともに表わし、震災の記録としての意味も持たせている。
    東から西へとわかりやすく紹介されているので気軽に読むことができ、ガイドブックとしても活用できる。
  • 子どもとでかける兵庫あそび場ガイド
    TRYあんぐる(丸善メイツ)
    本書は、子どもと一緒に出かける場所を、母親の視点から見たガイドブック。
    駅からの距離やトイレ事情、食堂や売店についてもチェックしている。「雨の日でもOKマーク」があるので、梅雨時のお出かけの参考にもなる。びっしりと書き込まれたイラストが、見ているだけでも楽しい1冊。
  • 花は色、人は心
    大野慈美(リトル・ガリヴァー社)
    神戸の花街といえば、福原。かつて神戸の中心街が三宮ではなく湊川新開地にあったころ、夜な夜な、紳士連中で賑わった歴史を持つ街である。往年の華やかさはなくとも、福原は今も夜の街。その福原に棲み、一つの時代を生きてきた「三味線流し菊丸さん」を取材した本である。80歳を超えた菊丸さんが三味線を小脇に抱え、着流しで歩く姿のなんと粋なことか。菊丸さんとその芸を心から慕う著者の熱意が伝わる1冊。
  • 六甲山の野鳥
    日本野鳥の会兵庫県支部編(神戸新聞総合出版センター)
    本書は、六甲山で観察される野鳥の名前を調べるための写真図鑑の部分と、六甲山でのバードウオッチングのポイントを紹介するコースガイド、それにバードウオッチングに関する資料で構成されている。
    生き生きとした美しい野鳥の姿やさえずりを楽しみ、豊かな六甲山の自然を満喫するための格好のガイドブックである。
  • いじめをほぐす-親と教員へ緊急のサジェスト
    伊藤友宣(朱鷺書房)
    いじめる側の心理構造を理解できなければ、「いじめ」をほぐす方策は見えてこない。いじめる側の子どもを、わかっていてもやめられない心理の泥沼からどう解き放つか。神戸心療親子研究室を主宰し、フリーの親子カウンセラーである著者は、経験に基づいた具体的なシュミレーションで、「いじめ」解放のメカニズムを説いていく。
  • 大震災、地下で何が
    神戸新聞社編(神戸新聞総合出版センター)
    阪神・淡路大震災の想像を絶する破壊力の元凶は何なのか。震災前から地震の警鐘記事を書いていた神戸新聞の「分析班」は、活断層説や軟弱地盤説を検証する。
    特に、今回の大地震を説明する有力な学説として「金折理論」を紹介。これは、1本1本では活動周期をつかむのが難しい活断層を、群れとして捉えて活動を予測するものである。
    大地の動きを知り、次なる震災に備えよと提唱する1冊。

その他

  • 兵庫県の農村舞台
    名生昭雄編著(和泉書院)
  • タイガースに捧ぐ
    真弓明信(ザ・マサダ)
  • よかった 鈴木絹代詩集
    (編集工房ノア)
  • 人妻小雪奮戦記-神戸ニュータウン事件簿
    浅黄斑(光文社)
  • 阪神・淡路大震災鉄道復旧記録誌
    (西日本旅客鉄道株式会社)
  • 阪神大震災トイレパニック-神戸市環境局・ボランティアの奮戦記
    日本トイレ協会・神戸国際トイレットピアの会監修(日経大阪BP)
  • 瓦礫の中のほおずき-避難所となった小学校の一教師の体験
    小崎佳奈子(神戸新聞総合出版センター)
  • 被災の思想 難死の思想
    小田実(朝日新聞社)

わが街再発見コーナー

兵庫区は、大輪田泊と呼ばれていた昔より、たびたび歴史の表舞台に登場してきました。福原は、一時的にせよ都となりましたし、区内には、平清盛や楠正成ゆかりの地名や史跡が多く残っています。
また、進取の気鋭に富んだ開港地らしく、明治の半ばには、和田岬に、わが国の水族館のはしりと言える「和楽館」ができました。やがて、新開地を中心にした娯楽文化が花開きます。
兵庫図書館の「わが街再発見コーナー」では、このような特色をふまえて、「歴史」と「アミューズメント」をテーマに資料を収集します。源平合戦や太平記、開港や米騒動などに関わりのある歴史書や小説の類を集めるほか、「アミューズメント」関連では、テーマパークや博物館、上方芸能や映画、演劇と幅広く資料を集めます。
5月に開館したばかりの真新しい図書館です。ぜひ一度お立ち寄りください。

ランダム・ウォーク イン・コウベ 19

神戸事件

兵庫開港の勅許が出た慶応3年(1868)12月。幕府から朝廷へ政権が移り、日本は混乱と緊張の渦中にありました。
翌慶応4年1月、新政府から西宮守備の朝命を受けた岡山備前藩の行列は、生田の森を左に見て三宮神社へ差しかかりました。開港後、神戸村には居留地が設けられ、この付近では外国人商人達が闊歩していました。
「下に下に」と通る行列を珍しそうに見物する外国人。その中から一人の水夫が軍隊の前を横断しました。面目をかけて横断を阻止しようとする隊士。日本人の慣習など全く理解できず、発砲の構えをとる異国人。その時、砲兵隊長、滝善三郎の「無礼者!」の一喝とともに手槍が放たれました。傷つき転がり逃げる異国人。と続いて起こる砲声。事件の知らせに居留地の英・仏・米の守備兵が応戦し、ついに射撃戦がはじまったのでした。
日本側は種々の対策を講じましたが収拾がつかず、関係国の連名で「発砲号令をした士官の死」と「関係諸国への陳謝」要求が出され、近代化を急ぐ新政府はそれら全てを飲み込みます。
この事件で生じた、外国軍隊の居留地占領、日本艦船の抑留、西国街道の通行制限などの険悪な状況は、一人の藩士の死によって1ケ月で終結しました。
慶応4年2月9日、善三郎切腹。24日の「中外新聞」に「各国の名代1人ずつ見分のため出張す」とあり、この時初めて外国人の前で切腹が公開されたそうです。5月7日の「THETIMES」には「Harikari」(ママ)=ハラキリと題し、詳細に報じられました。
昭和15年正月、郷田悳脚本の「神戸事件」が道頓堀中座で上演されました。外人水兵を負傷させた槍持龍平次とその恋人おとよ。おとよの父は昔、大名行列を横切ったために無礼打ちにあっていました。それと同罪の外国人を成敗しようとした龍平次が、今度は出世どころか咎となる。おとよの気持ちはやりきれません。部下である龍平次をかばい、心静かに死に挑む善三郎。登場人物はみな、開国直後の日本人のとまどいを代弁しています。
善三郎、享年32歳。表忠碑は昭和8年3月に切腹の場、永福寺(兵庫区南仲町)に建立されました。しかし寺は空襲で焼失、再建されず、後年碑は能福寺(兵庫区逆瀬川町)に移設され、神戸市の史跡に指定されました。
死をもって日本の危機を救った善三郎ですが、彼自身は日本のためというよりは主君のために、封建時代の武士らしく、昔ながらの忠義心で潔く命を捧げたのでしょう。
中央区元町、三宮神社境内入口に「史跡神戸事件発生地」の碑は建っています。国際港都神戸の発展の陰に、近代化の犠牲者とも言える人々がいたことに改めて気付かされる碑です。

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文化スポーツ局中央図書館総務課